地形図を見ていた時に、偶然軌道の記号を見つけた。
それは富山の山中にあった。
地形図の軌道の記号は誤表記されることも度々あったので、「本当にこんな山の中に軌道があるのか?」と半信半疑だった。
それからしばらくして発行されたナローゲージの本にその軌道のことが記載されていた。
その本によると軌道は『水口建設資材運搬線』と言うらしい。
しかし水口建設資材運搬線は最寄り駅からはかなり離れていて、駅から目的地付近へ向かうバスも運行されてなさそうで訪れるのは非現実的だと思われた。
それから数年して偶然訪れるチャンスがやってきた。
昭和60年秋に私と友人の2人は水口建設資材運搬線を訪れた。
富山地方鉄道の駅から車道を2時間程歩いて山道に入り、斜面を30分程登った所に軌道へとつながるダートの道が現れた。
もともとは山道を登り切った所から軌道が延びていたらしいが、途中までトラック輸送に切り替えたそうだ。
そのことを私たちは事前に知っていたので慌てずに済んだ。
使われなくなった線路の埋まっている道を辿って先を目指した。
周囲はうっそうとした森で熊が出てこないか心配だった。
しばらく歩いていくと珍妙な車両が停まっていた。
車両の下からは山の中に向かって軌間762㎜の細いレールが延びていた。
ここが現在の軌道の起点らしい。
列車が動くところを見たかったが、それは贅沢というものだろう。
軌道と車両を見れただけでも収穫だ。
軌道を辿って先へ進んでみることにした。
交換所らしい場所を過ぎて先を目指す。
しばらく歩いていると、何か物音が聞こえた様な気がする。
空耳かと思ったが、段々と音が大きくなる。
もしやと思いしばらく待っていると、先ほど起点に停まっていた車両がこちらに向かってのそのそと進んでくるのが見えた。
列車は人がゆっくりと歩く程のスピードなので、追いかけながら撮影できた。
列車は発電所まであと少しのところで停まった。
現在の軌道の終点に着いたらしい。
軌道はそこから先へは車両が進めないように少し先で切断されていた。
今日はここで運んできた荷物を降ろして、別の荷物に積み替えて起点まで戻るそうだ。
関係者の方たちが私たちにお茶を勧めてくれたので、疲れた身体をしばし休ませてもらった。
皆さんから「こんな山奥まで来る人なんかいないよ!」と笑われた。
今日はこれから荷物を麓の町まで運ぶそうだ。
すっかり寛いで発電所を後にするときに、お土産にと言って今朝採れたというキノコを頂いた。
関係者の方々の心遣いに感謝して帰路についた。
現在の軌道の起点まで戻ってきた。
ここで列車で運んできた荷物をトラックに載せ替えた。
私たちはトラックに便乗させてもらった。
狭い道で怖かったが、歩くよりは格段に楽だった。
トラックはダート道の終点につくと、今度は索道を使って荷物をはるか下方に見える車道におろした。
人間は荷物を追いかけて山道を歩いて下りた。
車道に出ると道路脇に停めてあったトラックに荷物を積み込んだ。
私たちはそのトラックで駅まで送ってもらった。
私たちは厚遇に感謝して、お礼を述べてトラックを見送った。
※軌道の名称に関しては、手元の資料の記述に倣って水口建設資材運搬線とした。